「銀行が審査を通してお金を貸してくれた。だから、この物件は安全な投資だ」——もしそう思っているなら、その”安心感”こそが、不動産投資で最も危険な罠です。
先に結論を言います。銀行が見ているのは「あなたが破綻しないか」であって、「あなたが儲かるか」ではありません。だから、安全かどうかは自分で数字を測るしかない。その物差しがDSCR(返済余裕率)と返済比率です。2億円を借りて13年やってきた私が、銀行の目線と、自分を守る安全ラインの引き方を解説します。

私が2億借りられたのは「安全だから」ではありません。銀行が「取りっぱぐれない」と踏んだからです。その2つは全然違います。自分の安全は自分で計算するしかありません。
銀行は「返済できるか」をどう判断しているのか

銀行が融資審査で見るのは、突き詰めれば「貸した金が、その物件の収益からちゃんと返ってくるか」の一点です。あなたの成功ではなく、銀行の貸し倒れリスクを見ている。これを数値化したのが、次の2指標です。
- DSCR(借入金返済余裕率):物件の稼ぐ力が、返済額の何倍あるか
- 返済比率:家賃収入のうち、何割が返済に消えるか
DSCR(返済余裕率)とは|「1.2」という数字の意味

DSCRは「NOI(実質的な収益)÷ 年間返済額」で計算します。具体例で見てみましょう。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 年間家賃収入 | 600万円 |
| 運営コスト(管理費・修繕等) | 120万円 |
| NOI | 480万円 |
| 年間元利返済額 | 400万円 |
| DSCR | 480 ÷ 400 = 1.2 |
この例のDSCRは1.2。DSCR1.0は、稼ぎと返済がちょうどイコール=一切の余裕がない綱渡りの状態です。空室が1つ出た瞬間に赤字へ転落します。銀行は最低でも1.1〜1.3を求め、あなた自身は1.3以上を目標にすべきです。
返済比率「50%の壁」——なぜ50%が安全ラインなのか

返済比率は「年間返済額 ÷ 満室家賃収入」。返済比率が上がるほど、手元に残る現金が薄くなります。
| 年間満室家賃収入 | 年間返済額 | 返済比率 |
|---|---|---|
| 600万円 | 300万円 | 50% |
| 600万円 | 360万円 | 60% |
| 600万円 | 420万円 | 70% |
返済比率が60%を超えると、空室・修繕・税金を吸収する余力がほぼ無くなります。50%以内なら、多少の空室や突発出費が出ても持ちこたえられる。これが「50%の壁」と呼ばれる理由です。
「銀行が貸してくれた=安全」が大間違いな理由

私自身、松本の物件で「審査は通ったが、運営は綱渡り」という状況を経験しました。返済比率が高く、少しの空室でキャッシュフローが詰まる。銀行はOKを出しても、実際に苦しむのは自分です。
あのとき私が助かったのは、鳥取で先に現金購入していた物件があったから。もしあれが無ければ、私の不動産事業は詰んでいたかもしれません。銀行の「貸せます」を、自分の「安全です」に翻訳してはいけない——これが13年で骨身に染みた教訓です。

銀行の言いなりで数字を鵜呑みにしないでください。第三者の目で”この物件、本当に安全か”を検証してもらうのが一番賢明です。私は若い頃それをやらずに痛い目を見ました。
「銀行や販売業者の言うことを、そのまま信じていいのか不安」——そんなときは、中立の第三者に無料でセカンドオピニオンをもらうのが有効です。数字の妥当性を、利害のない専門家にチェックしてもらえます。
DSCRが健全でも、買値が高ければ式は壊れる
ここまでの話には、大事な抜け穴があります。DSCRと返済比率が測っているのは、家賃が経費(借入の返済を含む)を上回っているかという一点だけです。物件そのものの買値が適正だったかは、この2つの数字のどこにも出てきません。
具体例で考えます。9,000万円の物件を、DSCR1.3・返済比率45%という優等生の数字で購入したとします。銀行の審査は通り、毎月のキャッシュフローも黒字。ここまでは完璧です。
ですが、この物件の適正な相場が、実は7,500万円だったとしたらどうでしょうか。5年後、転勤や家族の事情で売却が必要になったとき、売れる価格は7,500万円前後です。差額の1,500万円は、5年分の家賃収入では到底埋まりません。DSCRが一度も1.0を割らなかったとしても、家賃+売値-経費>買値という式は、購入した瞬間から成立していなかったことになります。
DSCRと返済比率は、「毎月赤字にならないか」という短期の体力測定です。買値そのものが適正かどうかは、まったく別の物差しで測る必要があります。それが不動産投資の真実で書いた、「明日売ったらいくらになるか」という問いです。安全な数字で借りることと、正しい価格で買うことは、別の作業だと分けて考えてください。
金利が上がったら、あなたの物件は耐えられるか

DSCRと返済比率は「今」の数字です。でも本当に大事なのは、金利が上がった”後”でも耐えられるか。これを事前に確かめるのがストレステストです。
| 項目 | 現状 | 金利+1% |
|---|---|---|
| 借入残高 | 8,000万円 | 8,000万円 |
| 金利 | 2.0% | 3.0% |
| 月次返済額(35年) | 約26.4万円 | 約30.5万円 |
| 年間返済額増加 | ─ | 約49万円増 |
借入残高が大きいほど、金利上昇の打撃は比例して重くなります。金利+1%でもDSCRが1.0を割らないかを必ず確認してください。金利上昇への備え方の詳細はこちらにまとめています。

数字が危険域なら——借り換えという選択肢

もしDSCRや返済比率が危険域なら、借り換えで金利を下げて改善する手があります。金利差・残存期間・諸費用の条件が揃えば、返済負担を大きく減らせるのです。借り換えの可否と判断基準は、専門記事で詳しく解説しています。

よくある質問

- QQ1. DSCRは購入前に自分で計算できますか?業者に頼む必要がありますか?
- A
自分で計算できますし、必ず自分で計算すべきです。
必要な数字は「年間満室想定家賃収入」「想定運営コスト」「借入条件(金額・金利・期間)」の3つだけです。運営コストが正確に把握できない段階では、家賃収入の30〜35%を保守的に見込んでおくことをお勧めします。
業者が提示するシミュレーションはあくまで「参考値」に過ぎません。自分の手で数字を入力し、自分の目でDSCRを確認する習慣が、長期的に生き残る投資家と退場する投資家を分ける分水嶺です。業者任せにしていいのは、物件の案内と契約手続きだけです。
- Q返済比率50%を守ろうとすると、利回りの高い物件しか買えなくなりませんか?
- A
その通りです。そして、それが正しい姿勢です。
返済比率50%以下という基準を守ると、買える物件の選択肢は確実に絞られます。特に都市部の低利回り物件や、高額融資を前提とした物件は自然と候補から外れます。しかしこれは「買えない」のではなく、「返済不能に陥る物件を自動的に除外できている」と捉えるべきです。ただし、これはあくまで返済面の安全であり、買値そのものが適正かどうかは別に検証する必要があります。
不動産投資において、基準を下げて物件数を増やすことよりも、基準を守って財務の健全性を維持することの方がはるかに重要です。私が13年・38室を遠隔管理しながら事業を継続できているのは、この原則を崩さなかったからだと確信しています。
- Q変動金利でローンを組んでいます。今後金利が上がった場合、DSCRが悪化するのが怖いです。今からできることはありますか?
- A
今すぐ、現在の借入条件で「金利+1%」のストレステストを実施してください。
具体的には、現在の借入残高・残存期間を維持したまま、適用金利を1%引き上げた場合の月次返済額を試算します。その返済額でもDSCRが1.2以上・返済比率が50%以下を維持できるなら、当面は耐性があると判断できます。
逆にストレステストでDSCRが1.0を割り込む場合は、繰り上げ返済による借入残高の圧縮、または固定金利への借り換えを検討するタイミングです。何より重要なのは、「怖い」という感覚を放置せず、今すぐ数字で現状を把握することにあります。感覚ではなく数字で動くこと——これが不動産を事業として経営する意味です。
すべての判断の土台にしているのは、不動産投資の真実|家賃+売値-経費>買値という一本の式です。物件を検討する前に、まずこちらに目を通しておくと、この記事の内容がより腑に落ちます。
まとめ——銀行の目線を理解し、自分の安全基準を守り抜け

- 「銀行が貸した=安全」は大間違い。銀行は破綻リスクを見ているだけ
- DSCRは1.3以上、返済比率は50%以内を自分の安全ラインにする
- DSCRが健全でも、買値が高ければ式(家賃+売値-経費>買値)は成立しない。安全な借り方と正しい買値は別問題
- 金利+1%のストレステストで、上昇後もDSCR1.0を割らないか確認する
- 数字は自分で手を動かして検証。不安なら中立の第三者にセカンドオピニオンを

借りられる額の話はこちらの記事で書きました。ですが「借りられる」と「安全に返せる」は別物です。DSCRと返済比率、この2つだけは自分で計算する癖をつけてください。
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融資条件の詳細を踏まえて、銀行選びの基本に戻って確認しましょう。


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