- 修繕費も火災保険料も上がったのに、家賃は何年も据え置きのまま
- 近所の似たような部屋は、うちより数千円高く募集されている
- でも「上げさせてください」と言って、断られたら? 出て行かれたら?
まず管理会社に相談して、入居者へ値上げのお願いを通知してもらう。ここまでは、たいていの大家がたどり着きます。
※借りている側の方へ。この記事は大家の立場で書いていますが、断ったあとに何が起きるかの法律は同じです。むしろ、値上げをお願いする側が何を計算しているのか、手の内が見えると思います。
問題はその先です。「検討しましたが、今のままでお願いします」と返ってきた瞬間に、手が止まります。
そして、そこから先の情報が、調べてもほとんど出てきません。「家賃の値上げを断る方法」なら、大手の不動産ポータルも銀行も弁護士事務所も、借りる側に向けて丁寧に解説しているのですが。
先に言ってしまうと、断られたあとに大家ができることは、法律上ほとんど残されていません。そういう仕組みになっています。この6年で物価は13.6%上がりましたが、家賃は1.3%しか上がっていません(総務省)。
私は鳥取から3棟38室を13年運営し、借入は2億円を超えます。恥ずかしい話、それでも長いあいだ勘違いをしていました。
募集する部屋の家賃は、自分で決められる。だから今住んでいる人の家賃も、同じように動かせるはずだ、と。動きませんでした。
ただし、打つ手がないわけではありません。この記事では、もう諦めていいことと、いまも確実に効く手を、はっきり分けて示します。

読み終えるころには、自分の部屋をいくらまで上げられるのか、そもそも上げるべきなのかが、その場で計算できるようになります。必要なのは交渉の話術ではなく、電卓ひとつです。
結論を先に言います。断られた家賃を、力ずくで上げる方法はありません。できるのは、出ていく人も断る人もいるという背反を先に計算したうえで、入居者に向き合い、根拠を丁寧に説明して、協力をお願いすることだけです。
前提:日本の家賃は、なぜこれほど動かないのか
| 指標 | 最新の指数(2020年=100) | 2020年からの変化 |
|---|---|---|
| 消費者物価指数(総合) | 113.6(2026年6月) | +13.6% |
| 民営家賃 | 101.3(2026年5月) | +1.3% |
| 民営家賃の最低値 | 99.8(2021年7月) | 一時は2020年を下回った |
出典:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」。民営家賃の月次指数は同統計をもとにGD Freak!が集計した数値。
食料品も光熱費も建築費も上がったのに、家賃だけがほぼ真横です。
「いやいや、うちの近所は募集家賃が上がっているぞ」と思いますよね。その感覚で合っています。ただし上がっているのは、あなたがまだ貸していない部屋の値段です。
報道される「賃料が過去最高」は、ほとんどが新規募集家賃——これから募集する空室に付ける値段の話です。ここは大家が自由に決められるので、相場が上がれば素直に上がります。
一方、物価指数が拾うのは、いま住んでいる人が実際に払っている継続家賃を含んだ数字。そしてこの継続家賃が、法律でがっちり守られています。
同じ建物で、去年入居した人が8万円、10年住んでいる人が6万5,000円。この差が埋まらないまま固定されていく。これが日本の賃貸の実態です。
断られたら実際どうなるのか——2つの条文が答えを決めている
①争っている間、入居者は旧家賃を払い続けられる
借地借家法32条2項は、増額について協議が調わないとき、請求を受けた側は「相当と認める額」を払えば足りると定めています。そして実務上その額は、ほぼ確実に従来どおりの家賃です。
しかもこれは、判決が確定するまで続きます。手続きの全体像を並べます。
| STEP | やること | 目安期間 | この間の家賃 |
|---|---|---|---|
| 1 | 協議(管理会社経由での打診・話し合い) | 数週間〜 | 旧家賃のまま |
| 2 | 内容証明郵便で増額請求の意思表示 | 即日 | 旧家賃のまま |
| 3 | 簡易裁判所へ調停を申し立て(調停前置主義) | 約6か月 | 旧家賃のまま |
| 4 | 調停不成立なら訴訟。不動産鑑定士の評価が主要証拠 | 半年〜1年以上 | 旧家賃のまま |
| 5 | 判決確定。差額を年1割の利息付きで精算 | — | 判決の額に確定 |
出典:借地借家法第32条第2項、民事調停法第24条の2。所要期間は法律事務所各社の解説による目安で、事案により変動します。
ここで内容証明について、正確に書いておきます。内容証明は「いつ請求したか」を証明する書面であって、相手を従わせる力はありません。
無意味というわけではありません。増額が後に認められた場合、いつから適用されるかの起算点を固める意味はあります。ただ、送れば相手が折れる、という道具ではありません。
②値上げを断られても、追い出すことはできない
もうひとつの条文が借地借家法28条です。普通借家契約では、大家からの更新拒絶や解約申入れには「正当事由」が必要とされています。
そして値上げに応じないことは、正当事由になりません。家賃を滞納しているわけではなく、従来の家賃はきちんと払われているからです。
滞納を理由とした明け渡しは家賃滞納の強制退去手順にまとめていますが、値上げ拒否はまったく別の話になります。
では裁判はどうか——勝てる。ただし、まず採算が合わない
誤解のないように書きますが、制度としては勝てます。賃料の増額を認める判決は、実際に出ています。ただ、個人の大家がアパートの一室で使う道具としては、成立しないというだけです。
判決で決まるのは「相場」ではなく「継続賃料」
裁判所が決めるのは、いま募集したら付く家賃(新規賃料)ではありません。いまの当事者間で妥当と言える「継続賃料」です。これは従来の家賃と現在の相場の間のどこかに着地し、相場までは届きません。
ある法律事務所が挙げる想定例では、大家が8万5,000円を主張し、入居者が現行の7万5,000円を主張したケースで、判断は8万円程度とされています。争った1万円のうち、取れるのは5,000円という形です。
出典:陽なた法律事務所「家賃値上げを借主が拒否したら?」(2026年2月18日)の想定事例。実際の判断は個別事情によります。
| 項目 | 金額・期間 |
|---|---|
| 勝ち取れた増額 | 月5,000円(年6万円) |
| 調停〜判決までの期間 | 約1〜2年 |
| その間に受け取れる増額分 | 0円(確定まで旧家賃) |
| 遡って回収できるもの | 差額+年1割の利息 |
| かかる費用 | 不動産鑑定費用、弁護士費用、申立費用 |
※増額分・期間は上記の想定事例をもとにした試算です。鑑定と弁護士の費用は事案ごとの見積もりで、公表された定額の相場はありません。
遡及分と年1割の利息が付くのは救いです。それでも年6万円のために、専門家費用と1〜2年を投じる構図は変わりません。
だからこうなります。裁判は、使える制度ではあるけれど、実務では「圧力」としてしか機能しない。そして相手もいずれ、こちらが本気で訴訟まで行く気がないことに気づきます。

ここを勘違いすると、いちばん大事なものを失います。
法的手段をちらつかせた時点で、相手はもう「交渉相手」ではなく「敵」になります。何年も家賃を払ってくれた人を、月数千円のために敵に回す判断が正しいでしょうか。そこです。
【本題】それでも値上げをお願いするには——向き合って、説明して、協力してもらう
力ずくが使えないなら、残る道はひとつです。相手に納得してもらうこと。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、法律の構造上、本当にこれしかありません。
①切り出すタイミングを選ぶ
| タイミング | 大家の立場 | 実際の通しやすさ |
|---|---|---|
| 退去後の再募集 | 新規募集家賃なので自由に設定できる | ◎ 相場が上がっていれば確実 |
| 契約更新時 | 話し合いの場が自然に発生する | ○ 資料を揃えれば現実的 |
| 契約期間の途中 | 相手に応じる動機がない | × ほぼ通らない |
継続中の部屋を1室ずつ口説くより、退去が出るたびに水準を直していくほうが、結果的に全体が早く上がります。「値上げ」ではなく「入れ替え時の設定見直し」として運用するのが実務の基本形です。
②「なぜ上げるのか」を、資料で示す
更新時に切り出すなら、感情ではなく借地借家法32条1項が挙げる事情そのものを持っていきます。法律が「これなら値上げを認めうる」と書いている項目だからです。
| # | 32条1項が挙げる事情 | 入居者に見せる資料 |
|---|---|---|
| 1 | 土地・建物にかかる租税その他の負担が増えた | 固定資産税の課税明細書(増額前後の比較) |
| 2 | 土地・建物の価格の上昇その他の経済事情の変動 | 公示地価・路線価の推移、火災保険料や修繕費の値上がり実績 |
| 3 | 近傍同種の建物の家賃と比べて不相当になった | 同じ駅・同程度の築年数・同じ間取りの募集家賃を3〜5件 |
出典:借地借家法第32条第1項
1番目には注意が必要です。建物の固定資産税は、経年減点補正によって年々下がっていくのが通常です。「税金が上がったので」と切り出したら課税明細を見せてほしいと言われ、実は下がっていた——では話になりません。
建物分ではなく土地の評価額が上がっている場合や、新築住宅の減額措置(3〜5年)が終わって税額が跳ね上がった場合なら、根拠として使えます。必ず自分の課税明細書で、前年と比べてから持っていってください。
一方、火災保険料は確実に上がっています。損害保険料率算出機構は2023年6月、火災保険の参考純率を全国平均で13.0%引き上げると発表しました。これは同機構の参考純率改定として過去最大の引き上げ幅で、2024年10月の料率改定に反映されています。
出典:損害保険料率算出機構「火災保険 参考純率改定(2023年6月28日届出)」。実際の保険料は保険会社・契約内容により異なります。
3番目には落とし穴があります。比較対象は「近傍同種」でなければ意味を持ちません。築25年の自室に対して駅前の築3年物件を並べても、根拠になりません。
もうひとつ。同条には但し書きがあり、「一定期間は家賃を増額しない」特約があればそちらが優先されます。中古物件を買った大家は前オーナーの特約をそのまま引き継いでいるので、動く前に必ず契約書を読み返してください。
③値上げ「だけ」を持っていかない
人は損だけを提示されると身構えます。交換条件があると、判断が変わります。
- 設備更新とセットにする:エアコンや給湯器の交換、宅配ボックスや無料インターネットの導入と同時に提示する。入居者にとっては「値上げ」ではなく「グレードアップ」になる
- 更新料と交換する:更新料を免除する代わりに月額を上げる。年間の負担がほぼ変わらない設計にできれば、合意は一気に近づく
- 段階的に上げる:いきなり3,000円ではなく、初年度1,000円・翌年1,000円と刻む
- 抑えたことを数字で伝える:「相場は8万円ですが、長く住んでいただいているので7万6,000円でお願いしています」
④相手にも引越し費用があることを、こちらが分かっておく
入居者が値上げを飲むかどうかは、突き詰めると「引っ越すコストと、上がる家賃、どちらが安いか」です。
敷金・礼金・仲介手数料・引越し代・家電の買い替え。数十万円かかることも珍しくありません。
月3,000円の値上げなら、年間3万6,000円。多くの人にとっては、引っ越すほうが高くつきます。
これは脅す材料ではなく、こちらが提示額を決めるための材料です。相手が冷静に計算して「まあ、そうだよな」と思える幅に収める。それが合意の条件になります。
値上げの背反を、先に計算しておく
丁寧に説明しても、出ていく人はいます。断る人もいるでしょう。それは避けられないので、起きたときにいくら損するのかを、先に数字にしておきます。
値上げの最大のリスクは、断られることではなく、退去されることです。
| 項目 | 金額(家賃7万円の部屋での例) |
|---|---|
| 値上げによる増収 | 月3,000円 × 12か月 = 年3万6,000円 |
| 原状回復費 | 約10万円 |
| 広告料(AD)1か月分 | 約7万円 |
| 空室2か月分の家賃 | 約14万円 |
| 退去された場合の損失合計 | 約31万円 |
| 損益分岐となる退去確率 | 3万6,000円 ÷ 31万円 = 約12% |
※家賃7万円・原状回復10万円・AD1か月・空室2か月を置いた試算です。金額は物件と地域で変わるため、自分の数字に置き換えて計算してください。
読み方はこうです。この値上げで出て行く可能性が12%を超えるなら、やらないほうが得。
「そんな確率、どうやって出すんだ」と思った方。正確に出す必要はありません。入居年数・周辺の空室状況・その人の生活拠点を並べれば、1割が高いハードルか低いハードルかは、感覚で分かります。
広告料の相場感は不動産広告費(AD)の相場と使い方に、逆方向の判断軸は家賃を下げるタイミングと空室改善方法にまとめています。

家賃を上げたいと相談されたとき、私がまず聞くのは「その部屋、今すぐ埋められるか?」ということです。
募集して1週間で決まる部屋なら上げていいでしょう。3か月空く部屋なら、上げた3,000円は空室2か月で消えます。法律より先に、まずそこです。
普通借家と定期借家——ここが、いちばん大きな分岐点
ここまでの話は、すべて普通借家契約を前提にしています。もうひとつの契約形態である定期借家では、ルールが変わります。
| 普通借家契約 | 定期借家契約 | |
|---|---|---|
| 契約の終わり方 | 正当事由がなければ更新される(28条) | 期間満了で確定的に終了する |
| 入居者の居住権 | 強い。値上げ拒否では追い出せない | 期間満了後に住み続ける権利はない |
| 賃料増減額請求(32条) | 適用される。断れば旧家賃のまま | 賃料改定の特約があれば適用されない(38条9項) |
| 値上げの通しやすさ | 相手の同意が事実上の必須条件 | 再契約の場面で条件を提示できる |
| 入居付け | 一般的で、募集で不利にならない | 敬遠されやすく、決まりにくい傾向 |
| 売却時の評価 | 通常 | 買主から空室リスクとして見られやすい |
つまり定期借家なら、「この家賃で結び直すか、退去か」を提示できます。「普通借家なら断れる、定期借家なら断れない」という理解は、おおむねこの通りです。
ただし正確には、定期借家でも断ること自体はできます。断ると住み続けられない、というだけです。ここは分けて理解してください。
落とし穴①:いま住んでいる人を、勝手に定期借家へは切り替えられない
いま住んでいる入居者を、大家の一存で定期借家に切り替えることはできません。知らずに進めると契約自体が無効になります。
- 平成12年3月1日より前に契約した居住用の建物は、定期借家へ切り替えられません。当事者が合意しても不可です(借地借家法平成11年改正附則3条)
- それ以降の契約なら、合意解約したうえで新たに定期借家契約を結ぶことは可能です。ただし入居者の合意が必須で、強制はできません
- 普通借家の入居者には更新の保護があるため、「定期借家に変えないなら出て行ってほしい」は通りません
出典:借地借家法平成11年改正附則第3条、公益社団法人全日本不動産協会「既存アパートの定期借家契約への切替え」
現実的な使い道は、次に入る人から定期借家にしていくという形になります。いま住んでいる人には、原則として使えない手だと考えてください。
落とし穴②:書面を1つ落とすと、普通借家に戻る
定期借家契約には、契約書とは別個独立の書面で「更新がなく期間満了で終了する」と事前に説明する義務があります(借地借家法38条3項。令和3年改正前は2項)。
最高裁は2012年9月13日の判決で、この書面が契約書と一体になっていた場合は説明義務を果たしたことにならないと判断しました。落とすと定期借家として成立せず、普通借家として扱われます。自己流でやらず、管理会社か専門家に確認してください。
落とし穴③:家賃を取りにいって、売値を差し出すことになる
私はレントロールで満室偽装を見破る記事で、購入前チェックとして「定期借家の部屋がないか確認する」ことを挙げました。満了で確実に退去となるため、買った直後に空室化するリスクだからです。
立場を裏返すと、全室を定期借家にした物件は、売却時に買主から同じ目で見られます。満室のレントロールを出しても、「この満室はいつまで持つのか」と値引きの材料にされる。
当サイトが軸にしている「家賃+売値-経費>買値」の式に戻すと単純です。定期借家は、家賃の項を取りにいって、売値の項を差し出す取引。長く持つ物件なら合理的ですが、数年で売る前提なら、取った以上に失う可能性があります。
家賃の値上げと拒否についてよくある質問

- Q家賃の値上げは拒否できますか?
- A
できます。借地借家法32条2項により、協議が調わないときは「相当と認める額」を払えば足ります。実務上その額は、これまでどおりの家賃です。
しかもこの状態は、増額を認める裁判が確定するまで続きます。大家側が一方的に新しい家賃を強制することはできません。
ただし、判決で増額が認められた場合は、不足分を年1割の利息付きでさかのぼって支払うことになります。
- Q値上げを拒否したら、更新を断られて追い出されませんか?
- A
値上げの拒否を理由に追い出すことはできません。普通借家契約では、大家からの更新拒絶や解約申入れに借地借家法28条の「正当事由」が必要とされています。
家賃を滞納しているわけではなく、従来の家賃はきちんと払われている以上、値上げに応じないことは正当事由になりません。
ただし定期借家契約は別です。期間満了で確定的に終了するため、再契約に応じなければ退去することになります。
- Q大家です。何パーセントまで上げていいですか?
- A
法律に上限の定めはありません。ただし借地借家法32条1項が挙げる事情(税負担の増減、経済事情の変動、近傍同種の家賃との比較)が必要です。
実務では、上限を決めるのは法律ではなく採算です。値上げで増える金額と、断られて退去された場合の損失(原状回復費・広告料・空室期間の家賃)を比べ、引き合う範囲に収めてください。
本文の「値上げの背反を、先に計算しておく」で、この計算の手順を数字で示しています。
- Q内容証明が届きました。無視してもいいですか?
- A
無視することは勧めません。ただし、書かれた金額に従う義務はありません。内容証明は「いつ請求したか」を証明する書面であって、相手を従わせる力を持つものではないからです。
受け取ったら、これまでどおりの家賃を払い続けながら、値上げの根拠を示してもらうよう求めるのが筋道です。
納得できる根拠が示されないまま話が進まない場合、相手は調停を申し立てることができます。
- Q定期借家契約に切り替えれば、値上げしやすくなりますか?
- A
再契約の場面で条件を提示できるため、普通借家より通しやすくはなります。賃料改定の特約を置けば、借地借家法32条の適用も外せます(同法38条9項)。
ただし、いま住んでいる人を勝手に切り替えることはできません。平成12年3月1日より前に契約した居住用の建物は、当事者が合意しても切り替えられません(借地借家法平成11年改正附則3条)。
それ以降の契約でも、合意解約したうえで結び直す必要があり、入居者の同意が欠かせません。現実的には、次に入る人から適用していく形になります。
- Q値上げを断られました。訴訟を起こすべきですか?
- A
金額次第です。制度としては勝てますが、個人の大家がアパート1室で使う道具としては、まず採算が合いません。
調停前置で調停に約6か月、訴訟でさらに半年から1年以上。その間はずっと従来の家賃のままです。しかも判決で決まるのは相場ではなく「継続賃料」で、相場までは届きません。
ここに不動産鑑定と弁護士の費用が乗ります。月数千円の増額を狙って何年も争う判断が本当に正しいか、先ほどの損益分岐で確かめてください。
まとめ——できるのは、誠実に説明することだけ
- 断られた家賃を、力ずくで上げる方法はない。争っている間は旧家賃のまま(32条2項)で、拒否を理由に追い出すこともできない(28条)
- 裁判は制度としては勝てるが、1〜2年かけて年6万円という採算では、実務上「圧力」としてしか機能しない
- 内容証明は「いつ請求したか」を証明する書面であって、相手を従わせる力はない
- 通しやすさは「退去後の再募集 > 更新時 > 期中」。9割はタイミングで決まる
- 更新時は32条1項の3事由(税負担・経済事情・近傍同種の相場)を資料で示す。不増額特約があれば契約書が優先
- 値上げ単体で持っていかない。設備更新・更新料免除・段階的値上げとセットにする
- 出ていく人も断る人もいる。退去された場合の損失と比べ、損益分岐の退去確率を先に計算しておく
- 定期借家なら32条を外せるが(38条9項)、いま住んでいる人には原則使えない(平成12年3月1日前の居住用は切替不可、それ以降も入居者の合意が必須)。入居付けと売却で代償を払う
家賃が上がらないのは、あなたの交渉が下手だからではありません。そういう制度設計になっているからです。
そのうえで大家にできることは、結局ひとつしかありません。いくらなら引き合うのかを自分で計算し、なぜ上げる必要があるのかを資料で示し、長く住んでくれている相手に、正面から説明してお願いする。
断られることもあるでしょう。出ていかれることもあります。それを織り込んだうえで頭を下げられるかどうかが、結局いちばん強い交渉材料になります。
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個別の対応を踏まえて、管理会社選びの基本に戻って確認しましょう。


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