みなさん最近、「イールドギャップ」という言葉をやたら耳にしませんか。株高のせいでしょうか。
株や投資信託が上がるほど、「借りたお金の金利」と「運用の期待リターン」の差が意識されやすくなります。不動産でいうこの差が、イールドギャップです。利回りと借入コストの差が大きいほど、儲かる仕組みだと説明されます。
ただ、実はイールドギャップが大きい物件ほど、危ないことがあります。
私自身、この指標で一度、判断を誤りかけました。
差は十分にありました。電卓を叩いても数字は合う。それなのに、通帳を見ると増えていない。なぜでしょう。電卓、一桁間違えた?
もう一度計算しました。合います。三回目も合う。四回目で、私は電卓のほうを疑い始めました。
悪かったのは残念ながら電卓ではありませんでした。私が使っていた計算式が間違っていたんです。
ただ、自分の計算のどこが間違っているのか分からず、その時はしばらく気持ち悪さだけが残りました。
のちほど学習してわかったこと——理由は単純明快でした。多くの場面で使われているイールドギャップの計算式には、融資期間が入っていないのです。
この記事は、イールドギャップという言葉は聞いたことがあるが、結局どう使えばいいのか腑に落ちていない人のための記事です。私は鳥取在住・大家歴13年・38室・借入2億円超の現役サラリーマン大家。先に結論:金利との差で計算するイールドギャップは、判断材料として不完全です。使うなら「ローン定数K%」との差で見てください。理由をこれから説明します。
イールドギャップとは何か(まず教科書どおりの説明)
イールドギャップ(Yield Gap)は、物件の利回りと、お金を借りるコストの差です。借りた金より物件が稼ぐほうが大きければ、その差額が自分の取り分になる。考え方自体はまっとうです。
問題は、この「差」の測り方が世の中で3種類くらい混在していることです。
| 計算式 | よく使われる場面 | 信頼度 |
|---|---|---|
| 表面利回り − 借入金利 | 販売資料、営業トーク | 使ってはいけない |
| 実質利回り(FCR) − 借入金利 | 解説記事の多く | まだ足りない |
| 実質利回り(FCR) − ローン定数K% | 実務 | これを使う |
下にいくほど正確になります。そしていちばん上の式が、いちばんよく目に入る。ここが厄介なところです。
なぜ「金利との差」では足りないのか
金利は、借りたお金にかかる利息の率です。しかしあなたが毎月銀行に払うのは、利息だけではありません。元金も一緒に返しています。
つまり、実際に出ていくお金の重さを決めるのは金利だけではなく、「何年で返すか」です。同じ金利でも、返済期間が10年と30年では、毎年出ていく額がまるで違います。
金利との差で計算するイールドギャップには、この融資期間という最大の変数が入っていません。だから数字上は健全に見えるのに、手元にお金が残らないという事態が起きます。

金利だけ見て安心しないでください。銀行に毎月いくら持っていかれるか、それがすべてです。
正しい物差し「ローン定数K%」
実務で使うのは、金利ではなくローン定数K%です。
ローン定数K%=年間の元利返済額 ÷ 借入残高 × 100
「借りた額に対して、1年でどれだけ銀行に持っていかれるか」を示す割合です。利息だけでなく元金返済も含むため、融資期間の長短がそのまま反映されます。
「また新しい用語か」と思った方。安心してください。これは電卓で一発で出ます。
銀行から渡される返済予定表に、年間の返済額がそのまま載っているはずです。
そしてイールドギャップは、本来こう計算します。
イールドギャップ = 実質利回り(FCR) − ローン定数K%
この数字がプラスなら正レバレッジ、つまり借りることで自己資金の効率が上がっている状態です。マイナスなら逆レバレッジ。借りたことが足を引っ張っている状態になります。
同じ金利でも結果が逆になる例
数字で見たほうが早いです。借入5,000万円・金利2.0%という、まったく同じ条件で融資期間だけを変えてみます。
| 融資期間10年 | 融資期間30年 | |
|---|---|---|
| 借入金利 | 2.0% | 2.0% |
| 年間の元利返済額 | 約552万円 | 約222万円 |
| ローン定数K% | 約11.0% | 約4.4% |
| 実質利回り(FCR)6%なら | 6 − 11.0 = −5.0% | 6 − 4.4 = +1.6% |
| 判定 | 逆レバレッジ | 正レバレッジ |
金利は同じ2.0%です。「利回り6% − 金利2% = 4%」という、よく使われる計算では、どちらも同じ「イールドギャップ4%」になります。ですが実際は、片方は毎年お金が減り、片方は残ります。
これが「イールドギャップが大きい物件ほど危ないことがある」という冒頭の意味です。
築古で利回りが高い物件ほど、銀行は融資期間を短く切ってきます。利回りの高さと引き換えに、K%が跳ね上がる。表面の差だけ見ていると、この構造が見えません。
「2.5%あれば安全」は、どこまで信じていいのか
イールドギャップの目安として「2.5%以上」という数字がよく挙げられます。これ自体は間違いではありません。ただし融資期間25年以上が前提の話です。
前提が外れれば目安も外れます。融資期間15年の物件に、25年前提の基準を当てはめても意味がない。数字を覚えるより、前提条件のほうを覚えてください。
もうひとつ、指標が教えてくれないこと
ここまでは計算の話でした。最後に、計算では埋まらない話をします。
借入金利と利回りには、決定的な性質の違いがあります。
| 確定しているか | 誰が決めるか | |
|---|---|---|
| 借入金利・返済額 | 契約で確定(変動金利なら上振れも) | 銀行 |
| 家賃収入・利回り | 確定していない | 入居者と市場 |
| 修繕費・空室 | 確定していない | 建物と運 |
支払いは契約で確定しているのに、収入は誰も保証してくれない。イールドギャップという1本の数字は、この非対称を表現できません。引き算の左側と右側で、確からしさがまったく違うからです。
借りて何かに投資するという行為は、株でも不動産でも構造は同じです。コストは確定、リターンは不確定。
ただし不動産の場合、右側を揺らす要因が空室・修繕・金利上昇・災害と、株より格段に多い。だから同じ「差が3%あります」でも、意味の重さが違います。

私は2億円借りています。返済額は1円もブレません。ブレるのは家賃のほうです。
この非対称を腹に落とさないまま借りると、痛い目を見ます。
応用編:奨学金を一括返済するか、その金で投資するか
この考え方は、不動産以外でもよく議論になります。代表格が「手元の貯金で奨学金を一括返済すべきか、それとも投資に回すべきか」という問いです。
金利1.7%で借りているお金を返さずに、期待リターン5%と言われるものを買う。差は3.3%。これもまた、イールドギャップを取りにいく行為です。
まず自分の金利を確認する
話はそこからです。奨学金は種類によって金利がまったく違います。
| 種類 | 金利(2026年時点) | 繰上返還の判断 |
|---|---|---|
| 第一種 | 無利子 | 急いで返す経済的な理由はない |
| 第二種(利率見直し方式) | 1.700%(2026年2月時点) | 金利上昇に注意が必要 |
| 第二種(利率固定方式) | 2.5%前後 | 返済も選択肢に入る水準 |
上限は年3%と決まっています。なお繰上返還そのものに手数料や追加の利子はかかりません。
第一種であれば、話はここで半分終わります。無利子のお金を急いで返す経済合理性は、基本的にないからです。
ここでイールドギャップの発想を持ち込むと、間違えます
「金利1.7%より期待リターン5%が上なら借りたまま投資すべき」——数字だけ見れば筋が通っています。ですが、不動産のイールドギャップとは決定的に違う点があります。
| 不動産投資ローン | 奨学金 | |
|---|---|---|
| 借りたお金は今どこに | 物件という収益資産に変わっている | すでに学費として使い切っている |
| 借金が生む収入 | 家賃収入がある | ない |
| K%(ローン定数)での判定 | 成立する | 成立しない |
| 返済を止める選択 | 売却という出口がある | ない |
不動産のイールドギャップが意味を持つのは、借りたお金が「稼ぐ資産」に姿を変えているからです。家賃という収入があるからこそ、それをK%と比べる意味がある。
一方、奨学金で借りたお金はもう手元にありません。学費として消えています。収入を生まない借金なので、K%と比べる対象がそもそも存在しないのです。
だから奨学金の判断は、ローン定数を持ち出さず純粋に「確定している金利」と「不確定な期待リターン」の比較で考えるのが正解です。
では結局どう考えるか
繰上返還は、「確実に、税金もかからず、金利ぶんのリターンが得られる運用」と言い換えられます。1.7%で借りているなら、返すことは確定1.7%のリターンです。
対する期待リターン5%は、あくまで期待値です。
確定1.7%と、不確定5%。この2つは同じ土俵の数字ではありません。本記事で繰り返してきた非対称が、ここでもそのまま出てきます。

2億円借りている人間が言うと説得力ゼロかもしれませんが、聞いてください。
私が借りているのは、家賃を生む物件に対してです。稼がない借金を抱えたまま投資に回すのは、同じレバレッジでも意味が違います。そこを混同しないでください。
判断の分かれ目は、数字より「その借金が、あなたの生活の選択肢を狭めているか」だと考えています。転職や独立をためらう理由になっているなら、期待値の差3.3%より、身軽さのほうが価値を持つ場面はあります。
逆に返済が生活を圧迫しておらず、値動きに動じない性格なら、無理に急いで返す必要もありません。正解は金利と性格の組み合わせで決まります。
結局、どう使えばいいのか
- 表面利回り − 金利は使わない。販売資料でこの計算が出てきたら、自分で計算し直す
- FCR − K%で見る。K%は「年間返済額 ÷ 借入残高」で、電卓ですぐ出せる
- プラスかマイナスかを先に見る。大きさより符号。マイナスなら借りるほど損をしている
- 目安の数字ではなく前提を見る。「2.5%以上」は融資期間25年以上の話
- 右側(収入)が揺れたときを試算する。空室2部屋、金利1%上昇で符号が反転しないか
実際の計算は、配布している無料のExcelシートでまとめてできます。FCR・K%・イールドギャップ・DSCR・返済比率など、銀行が見る指標を一度に出せるようにしてあります。

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よくある質問

- Qイールドギャップは何%あれば安全ですか?
- A
一般には2.5%以上が目安とされますが、これは融資期間25年以上を前提とした数字です。融資期間が短い物件では、この基準は成立しません。安全かどうかは「何%か」より「FCRがK%を上回っているか」で判断してください。
- Qなぜ利回りが高い物件ほど危ないことがあるのですか?
- A
利回りが高い物件は築古であることが多く、銀行が融資期間を短く設定するためです。融資期間が短いとローン定数K%が上がり、利回りの高さを打ち消してしまいます。金利だけを見た計算では、この動きが見えません。
まとめ
イールドギャップは、使い方さえ間違えなければ役に立つ指標です。ただし金利との差で計算している限り、融資期間という最大の変数が抜け落ちます。
FCRとK%の差で見る。符号を先に確認する。目安ではなく前提を見る。
この3つだけで、販売資料の「イールドギャップ4%です」という説明に流されなくなります。
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融資条件の詳細を踏まえて、銀行選びの基本に戻って確認しましょう。


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