不動産投資を始めて間もないころ、管理会社の担当者にこう言われたことはありませんか。
「今どき3点ユニットバスは嫌われます。セパレートにしないと入居付けはかなり厳しいですよ。」
私はその言葉を信じました。初めて購入した鳥取市の学生向けワンルームマンションで、言われるがままに60万円をかけてユニットバスをセパレートタイプに改修したのです。補助金が出るからお得、とも言われました。
結果から言います。工事後、入居付けそのものに大きく困ったことはありませんでした。 ただ、それと同時に私の頭の中には、ある計算がずっと引っかかり続けていました。
——この60万円、いったい何年かかって回収できるんだ?
家賃を5,000円上げたとして、60万円÷5,000円=120ヶ月、つまり10年です。
10年間、一度も空室を出さず、家賃値下げもせず、やっと元が取れる計算。これは「リフォームの成功」と呼べるのでしょうか。
代は「入居率を上げるための投資」ではなく、「利回りを静かに削り続けるコスト」になる危険性があります。
この記事では、私が実際に経験した60万円のセパレート工事の実録をもとに、費用対効果の正しい計算方法と、「やるべき物件・やってはいけない物件」の判断基準を解説します。特にキャッシュが厳しい投資初期段階においては、お金をかける前に検討すべき別の選択肢があるという視点も、包み隠さずお伝えします。
そもそも「3点ユニットバス」は本当に入居者に嫌われているのか?

空室の真因はユニットバスではなく「家賃設定」かもしれない
「3点ユニットバスは嫌われる」——これは事実の一面ではありますが、絶対的な真実ではありません。
たとえば、同じユニットバスの物件でも、家賃を周辺相場より5,000円安く設定すれば、条件として十分許容される場合がほとんどです。逆に言えば、セパレートに改修して5,000円家賃を上げたとしても、競合物件との比較で割高に見えれば、むしろ客付けは難しくなります。
入居者がまず見るのは「家賃」です。設備は「この家賃でこの設備はどうか」という文脈で判断されます。ユニットバスを嫌っているのではなく、割高なユニットバスを嫌っているのです。
入居率データから見る、ユニットバスの影響度の現実
実際の市場を見ると、ユニットバスが空室の主因になるケースには一定の条件があります。
- 競合物件のほとんどがセパレートであるエリア
- 単身社会人をターゲットとした都市部の物件
- 家賃帯が周辺相場と同水準以上の場合
逆に、学生向けワンルーム・地方都市・家賃が相場より低めに設定された物件では、ユニットバスは致命的なハンデにはなりにくいのが実情です。
私の鳥取の物件は学生向けでした。セパレート工事後に入居付けで困ることは確かにありませんでした。しかし今となって冷静に考えれば、工事をしなくても、家賃を5,000円下げれば同様に入居付けはできていた可能性が高いのです。その場合の損失は月5,000円。年間6万円。しかしリフォームに投じた60万円は、最初から永遠に消えていました。
60万円のセパレート工事——私が実際にやった結果と後悔

工事を決断したときの「動機」と正直な気持ち
2013年ごろ、私は「金持ち父さん貧乏父さん」を読んで不動産投資に目覚め、地元・鳥取市の信頼できる業者の紹介で、鳥取大学に近い学生向けワンルームマンションを約200万円でキャッシュ購入しました。表面利回り約10%、意気揚々の船出でした。
ところが購入直後、管理会社からこう言われたのです。
「今どきユニットバスは厳しい。セパレートにしないと入居付けはかなり難しいですよ。補助金も出るのでお得です。」
投資を始めたばかりで「空室が怖い」という心理が最大の弱点になっていた私は、その言葉に抗えませんでした。同じタイミングで、窓の二重・三重サッシへの交換も勧められ、こちらも数十万円を投じました。
「初物件で空室を出してはいけない」という焦りが、冷静な計算を吹き飛ばしていたのです。
工事後の現実——入居は付いたが、利回りは確実に削られた
工事後、入居付け自体には大きく困りませんでした。しかしその後、空室保証も付けていたため手取りはかなり低い状態が続き、最終的にこの物件を手放す判断をした際に振り返ってみると——トータルでは失敗だったという結論に至りました。
入居が付いたのはセパレート化の効果だったのか、それとも学生向けの立地と家賃水準のおかげだったのか、正直なところ今でもわかりません。ただ一つ確かなのは、60万円という初期コストは、最初からこの物件の収益性を静かに、確実に蝕んでいたということです。
入居が付いた」という結果だけを見て工事を正当化するのは危険です。「工事をしなくても入居は付いたかもしれない」という反事実を、常に頭に置いておく必要があります。
セパレート工事の費用対効果を「利回り計算」で正しく判断する

家賃アップ5,000円で本当に回収できるのか?10年試算の衝撃
感情や業者の言葉ではなく、数字で判断する。これが不動産投資を「事業」として運営する上での絶対原則です。
ユニットバスのセパレート工事における費用対効果を、シンプルな計算式で整理しましょう。
【基本の回収計算】
工事費用:600,000円
家賃アップ:+5,000円/月
回収期間:600,000円 ÷ 5,000円 = 120ヶ月(=10年)
10年間、一度も空室を出さず、家賃を下げることなく維持して、ようやく元が取れる計算です。
しかし現実はどうでしょうか。10年の間には必ず空室期間が発生します。退去のたびに原状回復費用もかかります。築年数が進めば家賃は自然と下落します。セパレート化しても、10年後には「今どきシャワーが古い」「追い焚きがない」と別の設備不満が出てきます。
「工事費用÷月額家賃アップ額」で10年を超えるリフォームは、キャッシュが厳しい投資初期段階においては原則として見送りを検討すべきです。
表面利回りへの影響——投資家目線で見るリフォームの正しい位置づけ
もう一つ、見落としがちな視点があります。リフォーム費用は物件の取得コストに上乗せして考えるべきだという発想です。
たとえば200万円で購入した物件に60万円のリフォームを施した場合、実質的な投資総額は260万円になります。
【工事前】
投資総額:200万円
年間家賃収入:20万円(月額約1.7万円と仮定)
表面利回り:10.0%
【工事後・家賃5,000円アップの場合】
投資総額:260万円(200万+60万)
年間家賃収入:26万円(月額2.2万円)
表面利回り:10.0%(偶然同じだが、空室リスクは増大)
【工事なし・家賃5,000円ダウンの場合】
投資総額:200万円
年間家賃収入:14万円(月額約1.2万円)
表面利回り:7.0%
数字だけ見れば、工事して家賃を上げた方が利回りは維持できます。しかし工事費用というキャッシュアウトは即座に発生するのに対し、家賃アップによる回収は10年かけてじわじわと積み上がるものです。
キャッシュフローが厳しい初期段階では、この「時間のズレ」が致命的な資金不足を招くことがあります。
出口・売却時の評価にリフォームはどう響くか
ここで一つ、多くの投資初心者が見落とす視点を加えます。
「リフォームすれば物件価値が上がって、売却時に高く売れるのでは?」という期待です。
結論から言えば、収益物件の売却価格は基本的に「収益還元法」で決まります。 つまり「どれだけの家賃収入を生み出しているか」が評価の軸であり、設備のグレードアップはそれほど直接的に売却価格に反映されません。
むしろ重要なのは「その物件が将来どんな買い手に、いくらで売れるか」を購入前から逆算しておくことです。私自身、初期の物件購入時にはこの出口の視点がまったく欠けていました。その後悔については、この記事では語り尽くせないほどの苦い経験があります。出口戦略の具体的な考え方と、売り時の判断基準については、以下の記事で詳しく解説しています。
【内部リンク挿入:ID〇〇「出口戦略・売却タイミングの記事」】
セパレート工事「やるべき物件」「やってはいけない物件」の分岐点

エリア・競合・ターゲットで判断する3つのチェックポイント
すべての物件でセパレート工事が無駄かというと、そうとも言い切れません。以下の3つの条件を満たす場合は、工事の費用対効果が成立しやすくなります。
チェックポイント①:競合物件の大半がセパレートである 周辺の競合物件を実際にSUUMOやアットホームで調べてください。同エリア・同家賃帯の物件の8割以上がセパレートであれば、ユニットバスは明確な「負け要因」になっている可能性があります。逆に競合の半数以上がユニットバスなら、焦る必要はありません。
チェックポイント②:ターゲット層が「単身社会人」である 学生・高齢者・外国人労働者・生活保護受給者など、家賃水準を最優先するターゲット層の場合、設備より家賃の方が入居決定に強く影響します。一方、単身の若い社会人をターゲットにする都市部物件では、浴室・トイレの分離は最低限の条件になりつつあります。
チェックポイント③:工事費用を回収できる保有期間がある 前述の計算通り、家賃アップ5,000円で回収に10年かかります。「あと10年以上この物件を保有する」という明確な意思と計画がある場合のみ、工事を検討する価値があります。出口を考えると5年以内に売却する可能性があるなら、工事費用はほぼ確実に回収できません。
「お金をかける」前に検討すべき空室対策の優先順位
ここが、私が最も声を大にして伝えたいポイントです。
空室対策にはお金をかける方法と、かけない方法があります。 そして多くの場合、お金をかけない方法を先に試すべきです。
【空室対策の優先順位】
① 家賃の見直し(コストゼロ)
② AD(広告料)の増額(費用は発生するが即効性あり)
③ 原状回復レベルのハウスクリーニング強化(数万円)
④ 小規模リフォーム(壁紙・照明・鍵交換など、10〜20万円)
⑤ 大規模リフォーム(セパレート化・給湯器交換など、50万円以上)
私が鳥取の物件で学んだ教訓は明確です。60万円のセパレート工事をする前に、まず家賃を5,000円下げるべきでした。
家賃を5,000円下げれば、年間6万円の収入減。しかし60万円の工事費用は最初から永遠に消えています。キャッシュが厳しい投資初期に60万円を一気に失うことの痛みは、毎月5,000円の収入減とは比べ物になりません。
「必ずしもお金をかければ良いわけではない」——これは不動産投資の基本原則です。特に手元キャッシュが薄い段階では、家賃の柔軟な見直しが最初の一手であるべきです。
空室が続く原因が本当にユニットバスなのか、それとも家賃設定・AD・管理会社の営業力なのか。その診断なくしてリフォームに走ることは、問題の本質から目を背けることにほかなりません。
空室対策の全体像とADの正しい活用方法については、以下の記事で詳しく解説しています。ユニットバスの判断をする前に、ぜひ一度この視点を確認してみてください。
【内部リンク挿入:ID33「アパート空室対策 新築 競合(新築アパートの空室対策とずらしの戦略)」】
また、レントロールの家賃設定が適切かどうかを見極める方法についても、以下の記事が参考になります。購入前・リフォーム判断前の必読記事です。
【内部リンク挿入:ID32「サクラ入居見分け方(満室偽装・レントロールの不自然なサインを見抜く方法)」】
よくある質問(Q&A)

- Qユニットバスのセパレート工事は、補助金を使えばお得になりますか?
- A
補助金が活用できるケースは確かに存在します。自治体によってはリフォーム補助金制度があり、工事費用の一部を賄える場合があります。ただし、補助金はあくまで「工事費用の一部を減らす」だけであり、費用対効果の本質的な問題は解決しません。
たとえば60万円の工事に10万円の補助金が出たとしても、実質負担は50万円。家賃アップ5,000円での回収期間は100ヶ月(約8年4ヶ月)です。補助金込みでも、長期保有前提でなければ回収は困難です。
私自身、「補助金が出るからお得」という言葉に背中を押されて工事を決断した一人です。しかし今振り返れば、その言葉は判断を急がせるための営業トークの一種だったと感じています。補助金の有無より先に、「この工事は何年で回収できるか」を必ず計算してください。
- Qセパレート工事をせずに空室が続いた場合、どこまで家賃を下げれば良いですか?
- A
目安は「競合の同条件物件より5〜10%低い家賃水準」です。
まず、SUUMOやアットホームで同エリア・同築年数・同間取りの物件を10件程度リストアップし、現在の自分の家賃設定を比較してください。その上で、ユニットバスというハンデを加味して5〜10%低めに設定することで、設備のハンデを家賃で補う戦略が成立します。
ただし、家賃を下げ続けることにも限界があります。ローン返済・管理費・固定資産税を差し引いて、毎月のキャッシュフローがプラスになる「損益分岐家賃」を必ず把握した上で、その水準を下回らないように調整してください。
家賃の下限ラインの判断方法については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
【内部リンク挿入:ID34「家賃下落 限界(家賃を下げても決まらない——下げ止まりの見極めと空室対策)」】
- Q中古物件を購入する際、ユニットバスかどうかはどの段階で確認すべきですか?
- A
購入検討の最初期、収支シミュレーションを組む段階で必ず確認すべき項目です。
ユニットバスであることが判明した場合、以下の2つのシナリオで収支を試算してください。
【シナリオA】セパレート工事をする場合 → 工事費用を取得コストに加算し、回収期間を計算する 【シナリオB】工事をせず、家賃を下げて対応する場合 → 下げた家賃でもキャッシュフローがプラスになるか確認するこの2つのシナリオを比較した上で、どちらが自分の保有期間・キャッシュ状況・出口戦略と整合するかで判断してください。
購入後に「やっぱりセパレートにしないと決まらない」と気づいても、その60万円は購入時の収支計画には入っていません。購入前の段階で設備の状態と対応コストを織り込むことが、失敗しない物件選びの鉄則です。
まとめ:10年以上かかる回収は「見送り」が正解な理由

この記事でお伝えしたことを、最後に整理します。
① 「セパレートにしないと決まらない」は条件付きの話 競合環境・ターゲット層・家賃帯によって、ユニットバスが空室の主因になるケースとそうでないケースがあります。業者の言葉をそのまま信じる前に、自分の物件の競合環境を数字で確認してください。
② 60万円の工事は、家賃5,000円アップで回収に10年かかる この計算を知った上で工事を決断するのと、知らずに決断するのでは、まったく意味が違います。回収期間が10年を超えるリフォームは、特に投資初期・キャッシュが薄い段階では原則として見送りを検討すべきです。
③ お金をかける前に、家賃の見直しを先に試す 私が鳥取の初物件で学んだ最大の教訓です。60万円を使う前に、まず5,000円の家賃値下げを試みるべきでした。コストゼロで試せる手段を使い切ってから、初めてリフォームの検討に入るべきです。
④ 出口を見据えた上でリフォームを判断する リフォームは「入居を付けるための手段」である前に、「保有期間中の収益と売却時の評価にどう影響するか」を逆算して判断するものです。出口から逆算する物件評価の考え方を身につけることが、長期的な不動産事業の安定につながります。
不動産投資は、感情や業者の言葉に流された瞬間に、静かにお金が消えていく事業です。私自身、この初号物件での60万円の経験を含め、数多くの「やってしまった」を繰り返しながら、今の判断基準を手に入れました。
その判断基準——特に「どの段階でリフォームを見送り、どの段階で実行するか」「空室対策の優先順位をどう組み立てるか」といった実務レベルの意思決定の軸については、私が運営するLINEオープンチャットコミュニティの中で、より具体的にお伝えしています。
記事では書ききれないリアルな数字や、個別物件の判断事例に興味がある方は、ぜひ以下からご参加ください。同じように「業者の言葉に不安を感じながらも、きちんと事業として不動産投資を進めたい」というサラリーマン大家仲間が集まっています。
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また、空室リスク全体の対策については、この記事の親記事である以下のまとめ記事で体系的に解説しています。ユニットバスの判断はあくまで空室対策の一要素に過ぎません。全体像を把握した上で、個別の戦術を選んでいただければと思います。
【内部リンク挿入:ID45「不動産投資リスク 空室(不動産投資最大の罠『空室リスク』の対策!満室経営を続ける秘訣)」】


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