ペット可にすると、家賃を高めに設定できて、空室も埋まりやすい。だからペット可は魅力的です。でもその裏側で、退去時に牙をむく修繕費があることは、あまり語られません。
私は13年・38部屋の大家をしていますが、ペット絡みで一番やられたのが、松本の物件で起きた「猫の臭いが、どうしても消えない」という一件でした。結末を先に言うと、30万円を全額自腹、さらに次の入居者には家賃を1万円下げて、ようやく部屋を埋めました。
この記事では、その実体験をもとに、ペット可物件で修繕費がどこまで膨らむのか、どこまで入居者に請求できるのか、そして同じ目に遭わないための備え方を、包み隠さず書きます。

ペット可は「家賃アップ」と「修繕リスク」がセットです。片方だけ見て飛びつくと、退去のときに泣くことになります。
【実録】松本の物件で「猫の臭いが消えない」——30万円の顛末

松本のアパートを購入したとき、その部屋にはすでに高齢の女性が長く住んでいました。そして部屋で猫を飼っていたのです。押し入れの一角を、その猫が寝床にしていました。
その入居者が亡くなり、部屋を引き渡してもらったとき、問題が起きていました。猫の臭いが、どうやっても取れない。クリーニングをかけ、拭き、上から塗り直しても抜けない。「これは普通の原状回復では無理だ」と悟った瞬間、30万円という数字が現実になりました。
費用は自腹、そして「臭いが残ったまま」の入居
入居者は亡くなっており、費用を請求する相手もいません。30万円は全額、私の持ち出しです。
しかも痛かったのは、30万円かけても臭いが完全には消えなかったことです。私は次の入居者に、家賃を月1万円下げた上で「臭いが残っている可能性がある」と正直に伝え、了承してくれた方だけに入居してもらいました。大家として、最も避けたい結末です。

隠して入居させて後でクレームになるより、正直に言って家賃を下げるほうがいいでしょう。ですが本当は、この状況を「買う前」に避けられたはずなのです。
本当の敗因は「買う前」にあった——既存入居者を把握していなかった

今振り返って「しまった」と思うのは、原状回復の30万円そのものではありません。物件購入の前に、既存入居者がどんな暮らし方をしているかを把握していなかったことです。
中古物件を買うとき、レントロール(入居者一覧)や賃料は必ず開示されます。でも「その人がペットを飼っているか」「契約書にペットの条項があるか」までは、こちらから踏み込んで確認しないと出てきません。私はそこを見ていませんでした。
不動産投資は「買った瞬間に勝負の8割が決まる」と私は考えています。物件・融資・管理会社・契約設計——どれか一つが甘ければ、そのツケは退去後の部屋で回ってきます。今回のツケは、猫の臭いという形で回ってきました。

デューデリジェンスは物件の数字だけではありません。「今、誰がどう住んでいるか」まで見るのが、遠隔大家の自衛です。
管理会社との連携でここを補う方法は、こちらにまとめています。

ペット可物件の修繕費は、通常の何倍か【費用比較表】

私の30万円は特別に高いわけではありません。ペット可物件の原状回復は、通常賃貸の2〜4倍に膨らむのが普通です。項目別に見ると、こうなります。
| 修繕項目 | 通常賃貸の費用目安 | ペット可物件の費用目安 |
|---|---|---|
| 原状回復(1室あたり) | 10〜20万円 | 30〜80万円(臭い・傷) |
| クロス張替え(1室) | 5〜10万円 | 10〜20万円(脱臭処理含む) |
| フローリング補修 | 3〜8万円 | 8〜15万円(爪傷・よだれ跡) |
| 消臭施工(1室) | 不要 | 3〜10万円 |
特に効いてくるのが消臭施工です。通常なら不要な工程が、ペット可では1室あたり数万〜10万円かかる。しかも私のケースのように、お金をかけても完全には消えないことがある——これが臭いの怖さです。
退去費用はどこまで入居者に請求できるか【国交省ガイドライン】

「ペットがつけた傷なら全額請求できる」と思いがちですが、正確には故意・過失による損傷は請求可、経年劣化は大家負担という線引きです。
| 損傷箇所 | 退去費用の負担者 | 費用目安 |
|---|---|---|
| ペットによるフローリング傷・爪痕 | 入居者負担(退去費用として請求可) | 1㎡あたり5,000〜15,000円 |
| ペット臭による壁紙・クロス全交換 | 入居者負担(退去費用として請求可) | 1部屋あたり5〜15万円 |
| ペットによる建具・ドア損傷 | 入居者負担(退去費用として請求可) | 1箇所あたり3〜10万円 |
| 通常使用による壁紙の経年劣化 | オーナー負担(退去費用として請求不可) | — |
| ペット特約で合意した敷金の追加分 | 入居者負担(退去費用の範囲内) | 家賃1〜2ヶ月分が相場 |
ポイントは、入居者が存命で連帯保証人も機能している場合に限って、この請求が現実的だということ。私のように入居者が亡くなり相続放棄されれば、請求先そのものが消えます。だからこそ、回収に頼る前に「入口」で防ぐ設計が要るのです。
入居者が亡くなった場合の費用負担の全体像は、こちらで詳しく書いています。

ペット可で運用するなら——入口で防ぐ「3つの自衛策」

退去後の回収に頼る設計は、最初から破綻しています。守るべきは入口(契約と審査)です。私が今なら必ずやる3つを挙げます。
- ペット可の原状回復は通常の2〜4倍。消臭はお金をかけても消えないことがある
- 入居者の死・相続放棄で、請求先が消えることがある。回収に頼る設計は危うい
- 守るのは入口。契約での頭数制限・ペット敷金・買う前の入居者把握の3点
- 私の敗因は原状回復費ではなく、買う前に既存入居者を見ていなかったこと。勝負は買う前についている

入居者の暮らし方は選べません。ですが「どう備えて買うか」は選べます。ペット可の怖さを知った上で、仕組みで受けましょう。
よくある質問——ペット可物件オーナーの疑問に答える

- Qペット可物件にすると、修繕費用はどのくらい増えますか?
- A
通常退去の2〜3倍を想定しておくのが現実的です。
一般的な退去時のクリーニング・原状回復費用が15〜30万円程度だとすると、ペット飼育があった場合は30〜80万円以上になるケースも珍しくありません。特に猫の場合、アンモニアが建材の奥まで浸透することで、表面的なクリーニングでは対応できず、床材・壁クロス・下地の張り替えが必要になることがあります。
私のケースでは30万円で済みましたが、それは部屋が比較的小さかったことと、次の入居者に臭いが残った状態で入ってもらうという「不完全な解決」を受け入れたからです。完全に原状回復しようとすれば、費用はさらに膨らんでいたはずです。
敷金をペット飼育時に月1〜2ヶ月分上乗せしておくことが、最低限のリスクヘッジになります。
- Q入居者が無断でペットを飼っていた場合、費用請求はできますか?
- A
契約書に特約があれば請求できますが、回収できるかどうかは別問題です。
無断飼育が発覚した場合、契約違反を理由に損害賠償請求・契約解除は法的に可能です。ただし実務上の問題として、①退去後に入居者と連絡が取れなくなる、②保証会社が「ペット関連の損害」を補償対象外としている場合がある、③少額訴訟で勝訴しても相手に資力がなければ回収できない、という壁があります。
「請求できる権利」と「実際に回収できる現金」は別物です。最も確実なのは、入居審査と契約特約でリスクを入口で防ぐことです。退去後の回収に頼る運用設計は、最初から破綻しています。
- Qペット禁止にすると空室が長引きませんか?
- A
立地・物件スペックによりますが、「禁止+他の差別化」の組み合わせが現実解です。
確かにペット可物件は入居者の母数が広がるメリットがあります。しかし私自身は、松本市の経験を経て現在は原則ペット禁止の方針を取っています。理由は単純で、「修繕リスクと手間が、空室期間短縮のメリットを上回る」と判断したからです。
ペット禁止で差別化するなら、設備グレードの向上・家賃設定の見直し・ターゲット層の明確化(単身社会人・高齢者・外国人など)といった別軸での競争力強化が有効です。
「ペット可かどうか」ではなく、「その物件が誰に選ばれる理由があるか」を問い直すことが、空室対策の本質です。
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個別の対応を踏まえて、管理会社選びの基本に戻って確認しましょう。


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